開催中の展覧会
田中真吾
ツァラトゥストラ
会期:2024年11月30日(土)―12月22日(日)
時間:13時―19時(最終日17時迄)
休廊:月・火・水
トークイベント:12月14日(土)17時~
聞き手:福元崇志(国立国際美術館 主任研究員)
ツァラトゥストラ
紀元前1200〜900年の間に始まったとされるゾロアスター教は、現存する宗教の中では世界最古とされ、火と太陽を象徴する善神アフラ・マズダーを最高神として崇めることから、日本では拝火教とも呼ばれている。ゾロアスター教は教義の中核に「善悪二元論」を据えたことで、その後の世界宗教(ユダヤ・キリスト教、仏教)が生まれる基礎となったと言われているが、元々の教義が口伝・口承で受け継がれており、紀元後300〜600年に編集された教典アヴェスターも全体の3/4が失われているため、その全容は未だに解明されていない。
ツァラトゥストラとは、ゾロアスター教の開祖ザラスシュトラ・スピターマ(Zarathustra)のドイツ語読みであり、フリードリヒ・ニーチェが著作『ツァラトゥストラかく語りき』を発表したことで、世界的に広く知られることになった。しかし、原始ゾロアスター教については正確な資料がほとんど残されていないことから、調べるほどに専門家の解釈は分かれ、ツァラトゥストラの名にも近世ヨーロッパ的虚像がまとわりついている。本展では、ニーチェ的ツァラトゥストラではなく、少々乱暴ではあるが「二元論」の始祖として解釈した彼の名を冠している。
本展で展示している《transitional stroke》は、「描く」と「消す」を交互に繰り返しながら制作している。水性ニスでコーティングしたパネルの上に油絵具あるいは油性インクで線を引き、ブラシクリーナーを染み込ませた布で拭き取ることで消していく。一連の作業を何度も繰り返していく内に、「描く」「消す」の認識は反転し、あるいは混ざり合い、一つのストロークが二つの意味を持ち始める。私にとって重要だったのは、このストロークが置かれている状況をどう言い表せば良いか分からないということである。「描く」だけでもなく「消す」だけでもない(両儀的という言葉をつけることも可能だが、射程が広すぎてしっくりこない)、双方の特性がほどよいバランスで共存しているとすれば、それは「二元論」に収斂されない、異なる言語表現を獲得できるのではないか。美術作品の完全なる言語化を夢見ることはナンセンスだが、分からなさを検証するために本シリーズを試みている。
最後に、タイトルの打ち消し線だが、線を一本引くだけで言葉の意味を消す効果が本展にあっていると感じた。なにより、打ち消された言葉をなんと呼べばいいのか分からないところがとても良い。
田中真吾
作家略歴
田中真吾/TANAKA Shingo
Exhibition / 展覧会
2024 年 「ツァラトゥストラ」(2kw gallery / 滋賀)
2024 年 「... from flames」( eN arts / 京都)
2023 年 「confidential 00005」( eN arts / 京都)
2023 年 「Idemitsu Art Award 2023」( 国立新美術館 / 東京)
2023 年 個展「STRIDES by strokes」( eN arts / 京都)
2023 年 個展「TANAKA Shingo Solo exhibition」(Cafe ふふふあん / 京都)
2022 年 「TRANS/ACTION」(大丸心斎橋店本館 / 大阪)
2022 年 個展「Transitional Stroke」(2kw gallery / 滋賀)
2021 年 個展「た れ そ か れ」(Aʼ holic / 東京)
2020 年 「EARTH WIND & FIRE」( eN arts / 京都)
2020 年 「CONFIDENTIAL case004」( eN arts / 京都)
2020 年 「Know Arts vol.1 解体とアプローチ 田中 真吾 × 薬師川 千晴 展」 ( 八日市文化芸術会館 / 滋賀 )
2019 年 「VOCA 展 2019 現代美術の展望-新しい平面の作家たち」 ( 上野の森美術館 / 東京 )
2018 年 個展「I have nothing to say」 ( 喫茶古良慕 / 滋賀 )
2018 年 「Nature ∩ Art」 ( 京都文化博物館 JARFO 京・文博 / 京都 )
2017 年 個展「Expect The Unexpected」( eN arts / 京都)
2017 年 個展「Phantom Edge」 (ギャラリー PARC/ 京都)
2017 年 「UNITED」 (eN arts / 京都)
2016 年 個展「ひかりをみる」 (ギャラリー揺 / 京都)
2016 年 個展「meltrans」 (eN arts / 京都)
2016 年 「TAMAVIVANTⅡ2016」 (多摩美術大学 / 東京)
2016 年 「eeny,meeny,miny,moe | orange」 (eN arts / 京都)
2015 年 個展「N∩1 ‐え し 意か 識 う 品‐」 (eN arts / 京都)
2015 年 「Celsius」 (CASHI°/ 東京)
2014 年 個展「す あ。ラ 火 一 見 極」 (eN arts / 京都)
2014 年 「eeny,meeny,miny,moe | red」 (eN arts / 京都)
2013 年 個展「かぎろいの輪郭」 (eN arts / 京都)
2013 年 「TSCA Rough Consensus」 (ANTEROOM KYOTO / 京都)
2013 年 「科学のあとに詩をかくこと」 (京都精華大学 7 号館 / 京都)
2012 年 個展「繋ぎとめる / 零れおちる」 (eN arts / 京都)
2012 年 個展「白の解態」 (studio90/ 京都)
2011 年 個展「識閾にふれる」 (eN arts / 京都)
2011 年 「UNITED」 (eN arts / 京都)
2010 年 個展「踪跡」 (INAX GALLERY 2 / 東京)
2010 年 「BIWAKO BIENNALE 2010」 (近江八幡 / 滋賀)
2009 年 個展「灯に照らされた闇」 (studio90 / 京都)
2009 年 個展「夢と現」 (eN arts / 京都)
2009 年 「□△ ハコトリ」 (函館 / 北海道)
2008 年 個展「瞼をつたう」 (shin-bi / 京都)
2008 年 個展「ほどける距離」 (ART SPACE NIJI/ 京都)
2008 年 「Black State」 (STUDIO J/ 大阪)
2008 年 「ART COURT FRONTIER #6」 (アートコートギャラリー / 大阪)
2004 年 個展「文明の二重奏」 (CITY GALLERY/ 大阪)
Text / 論文
2015 年 《アルベルト・ブッリが獲得したコラージュの独自性》 (京都精華大学紀要 第 46 号)
Web site URL https://shingotanaka.net